転職の概念とその成り立ちについて
第1回目は、転職の定義とその歴史や成り立ちについて解説していきます。
転職とは
・職業を変えること。広義では、職場を変えることとも捉えられる。
・転職の定義とは、雇用主と被雇用者との間の雇用契約を解除し、別の新たな雇用主と雇用契約を結ぶことであるとされる。
・日本では転職のことを、従事している職種を変えることではなく、雇用主を変えることを指すのが一般的。
・ただし、独立や起業することも転職と数える場合が多い。
転職の歴史
日本で初めて職業を明確に区分けするようになったのは、江戸時代といわれている。いわゆる士農工商である。最近の研究では、当時は実は農・工・商の区分けはそれほど厳密にあったわけではなく、各職業間での転職は珍しいことではなかったとされている。ただし士だけは家柄によって決められていたため、他の身分の者が武士へ転職するためには、その家へ婿入りするというのが唯一の方法であった。
明治時代に入ってからは、転職といえば引き抜きであった。雇用契約を結ぶという習慣がまだなく、転職者は自分の腕前と照らし合わせながら、より良い雇用条件を求めてある程度自由に転職することができた。
雇用契約という概念が浸透し始めたのは、大正時代に入ってからである。終身雇用という概念が生まれたのもこの頃だと言われている。しかし、労使間で終身雇用という契約を厳密に結んでいたわけではなく、人情や縁、恩情を大切にする日本人の気質が、一つの会社で長く働くことが美徳であるという考えに結び付いたのではないかと考えられている。
昭和の時代に入って近代化が進むにつれ、雇用主と被雇用者との間で労働条件の取り交わしが徐々に行われるようになっていった。欧米の契約文化が日本にも浸透してきたことが背景と言われている。
二度の大戦を経て焼け野原になりながらも、目覚ましい復興を遂げ、高度成長期を迎えることができた日本。その原動力となったのは、終身雇用という制度が定着したためである。当時は物を作れば売れる時代。被雇用者にとっても過酷な労働を強いられる時代にあった。それでも生涯にわたって賃金が上がり続け、生活が保障されるという終身雇用は、当時のビジネスマンを大いに奮い立たせた。そういった情勢下にあって、転職はむしろ異端と見られる風潮が強かった。
終身雇用に重きを置いた雇用契約は、1970年代にまで続く。しかし人々が安定した生活を手にするようになると、徐々にワークライフバランスといった概念が芽生え始め、職との向き合い方も多様的になっていった。それを象徴するのが、1980年代よりリクルートが発刊したB-ingやとらばーゆといった転職情報誌の登場である。それによって徐々に若い世代から、転職は先進的な考え方であると受け入れられるようになっていった。
ところがバブル経済期に入ると、新卒から大企業への門戸が大いに開かれるようになり、それによって転職文化がやや下火になっていった。そこにもやはり、長く勤めれば給与やボーナスが右肩上がりに上がっていく、終身雇用へのゆるぎない信頼があった。
人々が転職と真剣に向き合うことになったのは、バブル崩壊後の長期不況がきっかけであった。年長者が尊重される年功序列の評価制度はことごとく粉砕され、社会は実力主義へといやおうなく変化を遂げていった。そのさなかにあって人々の目は、安定よりも成長や自己実現を重視するようになっていった。実力のあるものが、より好条件の職場へと移っていく。転職が社会的に評価される時代は、この頃より始まったと言える。
今日では、転職=キャリアアップと解釈され、目標や目的と位置づけられるくらいに当たり前のこととなっている。その反作用として、終身雇用を大切にする数少ない企業が、労働者から人気を博すという現象も起こっている。